| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-088

太平洋側分布下限域のブナ個体群に与えた気候変動の影響

*小出 大(横国大院・環境情報),持田幸良(横浜国大)

本研究は「太平洋側分布下限域に生育するブナ個体群の過去数百年程度の更新動態と小氷期以降の気候変動との関係を解析し,当域のブナ個体群に与えた気候変動の影響を明らかにすること」を目的とし,静岡県函南原生林(223ha)を研究対象とした.そこに生育する樹高1.3m以上のブナ個体(739本)を対象に,全個体の樹高,胸高直径と位置を測定し,斉藤(1998)の樹齢換算式を用いて全個体の樹齢を算出した.

小氷期以降の気候変動を復元するため,1月〜3月の冬期降雪率(降雪日数/降水日数)を横浜と八王子における古記録から求め,その冬期降雪率から冬季平均気温を算出した.また本研究では幼木を便宜的に樹齢10年〜20年の個体として,過去の幼木個体数を次のように推定し,調査地におけるブナの更新動態を明らかにした.冷温帯林における樹木の生長段階ごとの死亡率データ(西村・真鍋 2006)から各生長段階の生存率を計算し,毎木調査から得た10年括約の樹齢階の個体数に各生長段階の生存率を逆算して幼木個体数を推定した.

過去の幼木個体数と当時の冬季平均気温とには高い相関があった.つまり寒冷な時代ほど定着したブナ幼木個体数が多く,温暖な時代ほど少なかった.そして近年の温暖化に伴ってブナ幼木個体数は等比級数的に減少していた.これら幼木個体数と冬季平均気温との関係には夏緑広葉樹林帯の下限域という温度的性質や,それに伴う常緑広葉樹との競争,積雪量・積雪期間の変化などによるブナ個体群の更新への影響が考えられる.

本研究により太平洋側分布下限域のブナ個体群には,小氷期の気候の影響が働いていることが明らかとなり,近年の温暖化に伴って更新が滞ってきていることが示された.

日本生態学会