| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-094

太平洋型ブナ林大面積プロットにおける十年間の動態

鈴木牧(東大演習林), 梶幹男(東大演習林), 大久保達弘(宇都宮大学)

冷温帯林の樹木群集の構造に対し、定着過程での機会的変動と成長過程での決定論的な機構がどのように作用しているかを、比較的面積の大きい毎木調査プロットの動態データをもとに分析した。調査プロットは関東山地奥秩父地域のブナ−イヌブナ−ツガ優占林にあり、面積は5.06 ha である。プロット内に出現した胸高直径5 cm 以上の全樹木個体が同定・個体識別され、3〜5年おきに生死と直径成長が記録されている。調査主体である東京大学秩父演習林から2005年度までの全データが公開されており、本研究ではこの記録を利用した。

調査開始年にプロットに出現した高木全61種のうち1/4 (15種)は、個体数が 10個体未満の低密度種であった。これら稀な樹種の個体は他の樹種の同サイズ個体に比べて死亡率が高かった。一方で、稀な樹種の新規加入速度(直径5 cm以上の個体が新たに出現する速度)は他の樹種に比べて低くはなく、またこれらの種群をプールしたサイズ構造はL字型を示したことから、稀な種群全体では一定の速度で新規加入が起こっていると考えられた。これらの種群は滞在時間は短いものの、大規模撹乱がなくても外部ソースから確率的に侵入することにより、局所多様性の減少を抑制する効果を果たしている。

一方で、個体密度は低くないが死亡率が高く、一山型のサイズ構造をもち、新規加入個体のいない樹種群も見られた。これらの種群は陽樹に分類されるものが多く、過去の大きなイベントに際して侵入し残存しているいわゆるギャップ依存種と推測される。このような種群の存在から、本プロットでは稀に比較的大規模な撹乱による多様性の増加が起こっていることが示唆される。

以上の分析から、本プロットの群集構造の成立と維持において、侵入・定着過程における機会的変動と時間的ニッチ分化の両方が複合的に作用していると考えられた。

日本生態学会