| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-096

与田切川砂防堰堤堆砂地における樹木群落の変遷

*黒河内寛之,松下範久,宝月岱造(東大院・農)

土砂災害対策の一つに、峡谷部への砂防堰堤建設がある。砂防堰堤建設に伴って観察される生態的変化の一つに、堰堤満砂後の堆砂地上への樹木定着がある。堆砂地は堰堤建設で新たに生じる樹木の定着場所で、人為が渓畔生態系に及ぼす影響や攪乱頻度の低い渓畔域裸地への渓畔林形成過程を把握するのに適した場所である。本研究は、天竜川支流の与田切川に建設された二基の砂防堰堤(飯島第3砂防ダム、飯島第5砂防ダム)の堆砂地上を調査地とし、満砂後の堆砂地上への樹木の定着過程の解明を目的とした。

最初に、二基の砂防堰堤の堆砂地上に定着していた全木本植物の樹種、樹高、立木位置を記録した。そして、全樹木の地際部を採取し樹齢解析を行った。植生調査の結果、飯島第3砂防ダムの堆砂地上(以下、飯島第3)には49種1306個体、飯島第5砂防ダムの堆砂地上(以下、飯島第5)には47種1443個体が定着していた。飯島第3と飯島第5に定着していた全個体の種組成と種構成は異なっていた。樹齢解析の結果、飯島第3では満砂後6年目に定着したバッコヤナギが最も古い現存個体で、飯島第5では満砂後3年目に定着したケヤマハンノキが最も古い現存個体であった。また、両堰堤において早い段階に定着していた樹木(ハンノキ属、ヤナギ属)の種組成と種構成は類似し、個体数が増加するにつれて両堰堤間の種組成の相違が拡大し、さらに個体数の増加とともに種構成が変化していた。したがって、与田切川の砂防堰堤堆砂地上における樹木の定着は、(1)先ず満砂後にハンノキ属やヤナギ属が定着する、(2)次第に無機的環境が改善され、それらの樹種の個体数が増加すると同時に、他の樹種が定着できる環境が作られる、(3)さらに時間が経過するに従って、堆砂地間の群落構造に相違が生じていく、という過程を経ると推測される。

日本生態学会