| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-098
近年,堆積物中の微粒炭量の変化から過去の火事の歴史を明らかにする研究が,気候の代替記録として,また人間−自然相互作用史の観点から注目されている。本研究では,京都盆地および丹波山地において採取した堆積物の微粒炭分析および花粉分析をおこない,晩氷期以降における火事の発生と植生変遷について明らかにした。京都盆地北部に位置する深泥池(標高75 m),丹波山地西部の蛇ヶ池(標高640 m)および東部の八丁平(標高810 m)の3地点で堆積物を採取し,深泥池と蛇ヶ池では約3万年前,八丁平では約1万年前以降の堆積物を対象として分析をおこなった。深泥池では,約14000−12000年前および約10000−8000年前の期間に,微粒炭量の顕著な増加がみられた。前者では花粉組成の変化がみられないが,後者ではエノキ属/ムクノキ属,クリ属/シイ属およびトチノキ属花粉が増加した。蛇ヶ池では,約11000−7000年前までの期間に微粒炭量が増加し,同時期にクリ属花粉の顕著な増加がみとめられた。八丁平でも,約11000−6000年前までの期間に微粒炭が多く,イネ科花粉が高率で出現した。このように3地点において,井上ほか(2001,2005)が報告した,後氷期初期に微粒炭量が増加する傾向が確認された。阪口(1987)は,先史時代の火事は焼狩および焼畑によるものだという説を提唱しているが,数千年にわたって火事が多く起こるという現象を理解するには,人為という要因だけでなく,植生のタイプや現存量,降水量の季節分布など「燃え広がりやすさ」に関わる要因も考慮する必要がある。炭の母材同定などの基礎研究とあわせ,国際的な火事史比較プロジェクトを通じて気候変動との関係を検討することが今後の課題である。