| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-100

房総半島南部の約8700年前の大型植物化石群から推定される照葉樹林のレフュージア

*小林真生子(千葉大院・園),百原新(千葉大院・園),清永丈太(東京都建設局),岡崎浩子(千葉県立中央博),能城修一(森林総研),柳澤清一(千葉大・文),岡本東三(千葉大・文)

最終氷期最盛期の照葉樹林構成樹種のレフュージアは,九州南部から房総半島にかけての太平洋沿岸に分布したと考えられている。房総半島は推定されているレフュージアの中で一番北に位置し,照葉樹林の現在の地理的分布を考えるうえで重要である.東海から関東地方南部での照葉樹林構成樹種の出現や照葉樹林の成立の時期は,九州南部や四国よりも遅れたとされてきた.しかしながら,今回,房総半島南端に近い館山市沖ノ島遺跡の約8700年前の地層から,常緑広葉樹種が優占する化石群が見つかった.沖ノ島遺跡の化石群にはタブノキPersea thunbergiiの花や果実,モチノキIlex integraの核,ヤブツバキCamellia japonicaの種子や果実が多く含まれており,木材化石群の大部分はヤブツバキによって構成される.花粉群ではコナラ属アカガシ亜属花粉が全木本花粉の34%,ヤブツバキのものと考えられるツバキ属−ナツツバキ属花粉が約13%を占めていた.常緑広葉樹種がこれだけ高い産出割合を占める花粉群は,四国や九州でも約8500年前以降にしか見つかっておらず,房総半島南部では九州や四国とほぼ同時期に照葉樹林が発達し始めたと考えられる.約8700年前には東京湾に海が侵入していたことや,東京湾周辺の同時期の花粉群では常緑広葉樹種が少ないことを考えると,関東南西部からの移入は考えにくく,最終氷期最盛期の房総半島南端にアカガシ亜属,タブノキ,モチノキ,ヤブツバキが残存していた可能性が高い。タブノキやヤブツバキは常緑広葉樹の中でも本州で最も北の地域に分布を拡大している種である.これらの樹種は,最終氷期に房総半島に残存していたことで,後氷期に北方へと分布を広げやすかったと考えられる。

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