| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-105
近年,古生態学研究の成果によって,日本では約1万年前以降に火事が頻発していたことが明らかにされ,このような火事が植生の成立にも影響を及ぼしていた可能性が指摘されている(井上ほか2001,2005)。こうした火事の要因の1つとして,火入れを伴う農耕活動が考えられるが,農耕活動と火事との具体的な関連や,それらが植生の成立に及ぼした影響については,考察できる資料が不足している。本研究では,縄文や弥生時代の遺跡が多数分布し,古くから人間活動が活発であった琵琶湖東岸部に位置する曽根沼および布施溜池から採取した過去約3000年間の堆積物試料を用いて,花粉分析,植物珪酸体分析,微粒炭分析,および放射性炭素年代測定を行い,これらの地域における植生変遷と,火事および農耕活動の履歴について考察した。その結果,曽根沼と布施溜池の周辺では,約3000年前にはスギを交えた常緑広葉樹林が発達していたと考えられた。その後,縄文時代から弥生時代への移行期に相当する約2500年前から,両地域ではイネの珪酸体と微粒炭が検出され始め,稲作農耕が開始されたことが示唆された。また,布施溜池周辺においては,約1500年前からソバ属花粉が多量の微粒炭を伴って検出された。両地域周辺では,稲作農耕の開始期以降に常緑広葉樹由来の花粉が減少し始め,さらに約1500−1200年前からはマツ属花粉の顕著な増加が確認された。これらの結果から,琵琶湖東岸部では縄文から弥生時代の移行期を境に,森林の二次林化が急速に進行し,その際には火入れ等による火事を伴っていた可能性が高いと考えられた。