| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-106

森と川をつなぐ細い糸:ハリガネムシに寄生・誘導されたカマドウマの渓流魚による捕食

*佐藤拓哉(三重大院・生資),毛戸一仁(近大・農),渡辺勝敏(京大院・理),原田泰志(三重大院・生資)

異質な生態系をまたぐ資源の移動は,受け手側の群集の構造や動態,機能に極めて重要な影響を与える.森林に覆われ,一次生産力が低い河川源流域において,陸生無脊椎動物は,渓流魚の餌資源として重要であり,その供給量に応じた渓流魚の捕食圧の変化を介して,底生生物群集の構造,さらには一次生産速度や陸域の群集構造にも波及的に影響が及ぶことが多くの研究から明らかにされている.

私たちは,“寄生虫による宿主操作”が森林から河川への陸生無脊椎動物の供給において重要な役割を果たすことを定量的に明らかにした.成熟したハリガネムシ(類線形虫類)によるバッタ類の行動操作(水域への飛び込み行動の生起)は,寄生虫による宿主操作の有名な事例である.紀伊半島の複数の河川源流域において,ハリガネムシがバッタ類を河川に誘導する秋に,渓流魚の多く(22-88%)がバッタ類を捕食していた.バッタ類を捕食していた渓流魚の胃内容物からは,頻繁にハリガネムシが確認された(16/73個体).一方,バッタ類を捕食していなかった77個体からはハリガネムシはまったく確認されなかった.これらの結果は,ハリガネムシによるバッタ類の河川への誘導が,渓流魚によるバッタ類の捕食頻度を高めていることを強く示唆する.

渓流魚に捕食されたバッタ類1個体当たりの推定乾燥重量は,他の餌生物と比較して極めて大きかった.渓流魚によるバッタ類の推定消費重量は,晩夏から晩秋にかけての陸生無脊椎動物の消費重量の大部分を占めており,1年を通した消費重量においても大きな割合を占めていた.つまり,寄生虫の存在は渓流魚の生産・繁殖に大きな正の影響を与えており,ひいては河川および森林の群集構造や機能にも大きな影響を与えている可能性がある.

日本生態学会