| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-107
これまで捕食者―被食者間相互作用は,生態系でもっとも重要かつ普遍的な生物間相互作用のひとつであると認識されてきたにもかかわらず,その柔軟さゆえに共進化の研究対象としては敬遠されてきた。この問題に対し,本研究は,島の生物地理学を応用することが強力なアプローチが実現することを示す。島の生物地理学における予測のひとつは,空間的に限られた環境では,共存する種数が面積によって強く制限されることである(種数―面積関係)。そのため,面積の異なる島間では群集組成に違いが生じやすい。この群集組成の違いは,捕食者―被食者間相互作用の構造と強さに影響することが予想される。そのため,面積の異なる島間での比較は,捕食による共進化の動態に迫る上で有力な手がかりを提供するだろう。そこで本研究では,セダカヘビ類とエサであるカタツムリの共進化過程に注目した。琉球列島では石垣島と西表島にイワサキセダカヘビが,台湾にタイワンセダカヘビが分布しており,両者の中間に位置する与那国島には同属のヘビは分布しない。イワサキセダカヘビと同所的なカタツムリには,ヘビに対する形態的な被食防御機構が進化していることがわかっている。しかし今回,その防御効果がむしろ異所的なタイワンセダカヘビに対してより顕著に発揮されることが実験によって確かめられた。この結果は,イワサキセダカヘビにエサの防御への対抗進化が起きている可能性を示す。本種に特徴的な下顎骨の伸張はその一部かもしれない。いっぽう面積の大きな台湾ではエサの多様性が高いため,両者の相互作用は拡散されていると思われる。すなわち,もともとは拡散的だった両者の共進化が,面積の縮小にともなって熾烈な1対1共進化に発展したというシナリオが示唆された。なお,さらなる面積の縮小にともなってエサの多様性が著しく低下した与那国島では,ヘビ類の絶滅というかたちで共進化が収束したものと考えられた。