| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-109

休耕田・耕作放棄水田におけるトンボ目昆虫の分布規定要因

*土田琢水(東大・農・農学生命科学),加藤和弘(東大・農・農学生命科学)

栃木県南東部の谷津田の休耕または放棄された水田においてトンボ目昆虫成虫の分布を規定する要因が,前繁殖期間の短い種(短期種)と長い種(長期種)でどう異なるのかを2つの空間スケール(区画スケール,谷津スケール)で検討した。

区画スケール(1区画は延長30m)では,短期種の個体密度に対して区画内の開水面の面積と草刈りが正,代掻きが負に影響した。長期種の個体密度に対しては,開水面の面積と高茎草本植生の植被率が正に影響した。また,両種群ともに同一の谷津内,近接する谷津の間で個体密度が類似する傾向を示した。

谷津スケール(対象地内の谷津の平均延長は117.3m)では,短期種の個体密度に対しては,谷津内の開水面面積と谷津の境界から外側50m以内の水域面積が正に影響していた。長期種の個体密度に対しては,高茎草本植生の植被率と開水面面積が正,樹冠開空率が負,谷津の境界から外側500m以内の水田面積と同人工地面積が正,同樹林地面積が負,異なる土地利用間のエッジの長さが正に影響していた。また,両種群ともに近隣する谷津の間で個体密度が類似する傾向が見られた。

短期種は幼虫で越冬し,前繁殖期間の分散力が低い種が多いため,ハビタットから大きく離れることなく生活環を完結する。従って,局所的には管理状況や開水面面積,より広域的には近隣におけるため池などの水域の多少が分布に影響を及ぼしていた。長期種は成虫または卵で越冬し,前繁殖期間の分散能力が高く水辺を離れて生活するため,局所的には産卵場所としての開水面の面積,止り場としての高茎草本の量,より広域的には未熟期を過ごすための周辺の土地の状況,特に休耕田・耕作放棄水田以外のハビタットである水田の多少が分布に影響を及ぼしていた。

日本生態学会