| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-111
近年,琵琶湖周辺の水田地帯では開発や圃場整備事業等により,琵琶湖−河川−水路−水田間を結ぶ水辺ネットワークが改変され,水田地帯を利用する魚類が減少傾向にある.現在では琵琶湖や周囲の水田地帯を利用している魚類の生態的・社会的環境の保全と復元が強く望まれ始めたが,その基礎となる水田利用魚類の実態についてはこれまで全国的にもほとんど明らかにされていなかった.
演者らは2000年より,琵琶湖周辺の水田地帯を利用する魚類の保全を目的として,水田利用魚類の生態を把握するための長期的な調査を琵琶湖東岸の彦根市において実施してきた.調査地点約400箇所におよぶ彦根市内の魚類相調査では,水田地帯において35種もの在来種が出現した.それぞれの魚種が確認された地点を琵琶湖,内湖,平野部水田地帯,河川,市街地などの土地利用において区分したところ,水田地帯にのみ固有に出現する魚種はおらず,水田地帯と河川の両方に関わりをもつ魚種が多かった.
また,2002年から2003年にかけて同一水系内の恒久的水域である琵琶湖,河川,一時的水域である水田地帯(小排水路,水田)において,年間を通じて魚類の出現と利用パターンを調査した.その結果,水田地帯への出現パターンはフナ類,ナマズのように水田地帯を産卵場所として利用するもの,カネヒラのように稚魚・未成魚期の育成場所として利用するもの,オイカワのように冬季にも河川の増水により一時的に水田地帯に侵入してくるもの等,それぞれの種や成長段階によって多様な利用パターンがあることが明らかになってきた.これらのことは琵琶湖や河川とネットワーク化された水田地帯が様々な魚種の生活史上で重要な役割を果たしていると考えられた.