| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-113

山岳湿原のユスリカ群集: 構造決定に果たす移入・移出の役割

*冨樫博幸, 鈴木孝男, 占部城太郎(東北大・生命科学)

宮城県蔵王山系に位置する山岳湿原、芝草平には大小様々な池塘が多数点在し、それぞれの池塘はあたかも孤島であるかのような局所生物群集を形成している。これら池塘には、ユスリカ幼虫が多く見られ、その種組成や密度は池塘により大きく異なっている。ユスリカは水中(水面)に産卵し、幼虫時代を水界で過ごした後、羽化し上陸する。このような産卵による移入や羽化による移出が、ユスリカ幼虫の群集構造にどのような役割を果たしているかを明らかにするため、産卵・羽化トラップを任意に選んだ8池塘に設置した。トラップの回収は2007年6月7日〜7月18日の期間、毎週1回の間隔で行い、併せて底泥と池塘側面のユスリカ幼虫の定量採集を行った。

ユスリカ幼虫の密度や種組成は調査期間をつうじて池塘によって大きく異なっていたが、いずれの池でもユスリカ幼虫の個体数は産卵量の多い種ほど多く、各種密度と羽化量や死亡率との間には有意な相関は見られなかった。また、ユスリカ幼虫の種組成や密度と池塘の水質や潜在的な捕食者(サンショウウオ幼生やトンボのヤゴ)との間にも有意な関係は認められなかった。以上の結果より、各池塘のユスリカ幼虫群集構造は、その池塘の環境状態や局所の種間相互作用よりも偶発的な産卵・移入量によって主に決定されていることを示唆している。

日本生態学会