| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-131
マラウイ湖のシクリッド魚類群集は世界有数の多様性を誇り、故に餌資源をめぐる種間競争に由来するニッチ細分割(専門化)が顕著である。一方で、各種の食性変異(潜在ニッチ)は広いとする報告も多数ある。一見矛盾する2つの特徴は、群集構造にどのような性質を与えるのか。2006年7〜9月(乾季)と2007年2月(雨季)、互いに離れた岩礁沿岸帯7地点にて潜水採集した全魚種の窒素・炭素安定同位体比分析を行い、群集(食物網)構造の比較を試みた。大方の魚種の餌となる付着藻類の炭素同位体比(δ13C)は、岩の上部では極めて高く(最大-5‰程度)、岩の側部や裏側では低い値(最小-15‰程度)を示した。浮遊藻類では-25‰程度であった。一方、地域間変異、水深(3〜7m)に伴う変化、サイズ分画(20μmメッシュ)間の変異は顕著でなかった。藻類のδ13Cの変異は、付着角度に伴う光合成活性の強弱に起因すると考えられ、藻類食シクリッド魚類の摂食場所(付着角度あるいは水柱中)の指標として有効であることが示された。藻類食シクリッド各種のδ15Nは、藻類と比べて3〜4‰高く、藻類食(栄養段階2)であることが確認された。シクリッド各種のδ13Cは、糸状藻類食、小型藻類食とされるグループそれぞれの中で、種間でオーバーラップしない傾向が見られた。一方で、地域間での種内変異は顕著であった(食性変異)。群集ごとに、食性ブループ内でニッチ分割がおこるが、各種が占めるニッチは一定ではないことが示された。先行の行動観察では他種間の摂食なわばり制が各魚種の摂食角度を制限することが示唆されており、またなわばり制で攻撃的な性質の魚ほどδ13Cの変異が大きいことから、ニッチの分割様式に種間なわばり行動が何らかの役割を果たすと考えられた。