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一般講演(ポスター発表) P2-143
安定同位体比を用いた食物網解析では、窒素安定同位体比は栄養段階、炭素安定同位体比は生産基盤の指標として用いられている。硫黄安定同位体比は細菌による硫黄還元が大きい同位体効果を生み出すことから、還元的環境が存在し硫黄還元が生じる地域を含む生態系では、動物の空間利用や餌資源推定の指標として用いられている。湖沼生態系においても、深底帯や植生帯内部において還元的環境が存在する。そこで、本研究では琵琶湖沿岸ヨシ帯の物理的環境条件(酸化還元環境)に着目し、炭素・窒素・硫黄安定同位体比分析を用いてヨシ帯食物網を明らかにすることを目的とした。
調査は2007年9月から11月にかけて琵琶湖沿岸のヨシ帯3地点と砂浜3地点で行った。また、ヨシ帯3地点のそれぞれにおいて内部と周縁部(外部)の2点で調査を行った。調査項目は環境要因測定(溶存酸素量、酸化還元電位など)と生物採集調査(POM、付着藻類、水生植物、ベントス、魚類)である。現在、採集した試料の炭素・窒素・硫黄安定同位体比分析を進めている。始めに、ヨシ帯の内部と外部、砂浜での溶存酸素量および酸化還元電位は共にヨシ帯内部が還元的環境であることを示していた。次に、ヨシ帯のベントスの炭素・硫黄安定同位体比を比較すると、ヨシ帯外部の巻貝(カワニナ類)の餌源は付着藻類とヨシ由来のデトリタスであると考えられた。しかし、ヨシ帯内部の巻貝(タニシ類)はヨシの炭素・硫黄安定同位体比よりも低い値を示し、この巻貝の餌源に細菌が含まれている可能性が考えられた。このように、ヨシ帯内部の還元的環境では細菌が食物網の生産基盤の一部となっている可能性がある。本発表では、これらの結果を踏まえて琵琶湖沿岸のヨシ帯食物網について議論したい。