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一般講演(ポスター発表) P2-160
多くの生物は、サイズや形状の異なる景観要素からなる空間に生息している。空間的異質性は、個体の行動から種の分布パターンまで様々なレベルに影響を与えている。中でも、メタ個体群構造をもつ生物は生息地間を移動分散することで個体群を維持しており、空間的異質性の影響を受けやすい。これは分散プロセスが、パッチの空間配置や、移動分散が行われるパッチ間環境(マトリクス)の異質性の影響を受けるためである。
これまでのメタ個体群研究は、周辺パッチとの距離やパッチ内の生息数により移入ポテンシャルが変化するというパッチの特性と空間配置のみを扱うことが多く、マトリクスの影響については重視してこなかった。マトリクスは複数タイプの景観要素を含むモザイク構造をしており、各要素が個体の行動に及ぼす影響は異なることが多い。これは、従来個体群内で同一の値を想定してきた “分散可能な空間スケール”が、マトリクスの構造により大きく異なることを意味している。
本研究では野外データを用いて、各景観要素が分散プロセスに及ぼす影響を定量化するとともに、分散スケールの不均一性がメタ個体群の構造やサイズに与える影響を明らかにすることを目的する。調査対象は、千葉県九十九里平野の放棄水田に生息するカヤネズミである。本調査地は、人家、道路、水路、水田など複数の景観マトリクスを含む。各マトリクス要素の影響力については、統計モデルを用いて分布パターンから推定した。さらに、分散スケールが不均一な場合と均一な場合を仮定したシミュレーションを行い、マトリクスの不均一性の程度がメタ個体群のサイズや構造に与える影響の大きさを評価した。