| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-164

秋に大量出没したツキノワグマはどこに行ったか?

西 信介(鳥取県林試)

2004年と2006年の秋に本州の日本海側の地域で、ツキノワグマ(以降クマ)が人里近くに頻繁に出没して人身被害や精神的被害を引き起こし、大きな問題となった。クマ対策を検討する上で、人里に接近したクマがどこに移動するか、どの位の距離を移動するかを把握することは重要である。今回、秋に人里近くで捕獲されたクマが、その後どこで行動し、冬眠したかを報告する。

鳥取県内で2004年と2006年の秋に有害捕獲または錯誤捕獲されたクマに発信機を付けて放獣し、その後の移動状況を追跡した。追跡調査は原則週に1回以上、日中に行い、3カ所以上の地点から電波の強い方向を計測して位置を把握した。放獣した年の12月まで追跡した2004年放獣の5個体、2006年放獣の3個体、合計8個体について移動状況を解析した。何れも集落、田畑周辺で捕獲されているが、放獣された場所は捕獲地から44m〜14.8kmと幅がある。

放獣後、5頭のクマが直線距離で10km以上移動した。2003年と2005年のブナ・ミズナラ豊作時のクマの年間の移動距離は10km以内であり、それに比較して凶作時は大きく移動することがわかった。放獣地と冬眠地の関係をみると、放獣地から5km以内で冬眠したクマが2頭、5〜10kmが3頭、10km以上離れた場所が3頭であった。捕獲地と冬眠地では5km以内が1頭、5〜10kmが2頭、10km以上離れた場所が5頭であった。何れも捕獲地より標高の高い場所で冬眠し、加えてブナ・ミズナラ堅果が豊作だった2003年、2005年に比べて、早目に冬眠する傾向がみられた。最も大きく移動した個体は2004年に標高29mで捕獲された個体で捕獲地から21km、放獣地からは15km離れた標高1070m地点で、積雪のため見失った。この個体は2006年4月には2004年の捕獲地から35.5km離れた標高766mの山中にいるのを確認した。

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