| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-168
様々な生物で見られる多くの交雑帯では、交雑が頻繁に生じているにもかかわらず、両種が融合することなく遺伝的な差異を安定的に維持し続けている。この要因の一つとして、雑種の適応度の低下が挙げられる。異なる環境に適応した両親種から生じる雑種個体は、中間的な形質を持つためにどちらの環境においても親種より競争力に劣り、成長の遅延が見られるなどの淘汰がかかることが報告されている。一方で、遺伝的に異なる集団からの個体同士を掛け合わせることによって、雑種第一代では両親種よりも高い成長率を示す雑種強勢の例もみられる。魚類では一般的に、体サイズの増加に伴い産卵数が増え、仔稚魚期の速い成長は捕食回避に貢献することが知られており、潜在的な速い成長速度は適応度に影響しうる要因である。
北海道南部は温帯性のアイナメとクジメ、亜寒帯性のスジアイナメが二次的に接触して形成された交雑帯にあり、アイナメとスジアイナメ、およびクジメとスジアイナメの雑種が高頻度で採集される。しかし、交雑帯において3種は明瞭な遺伝的差異を維持しており遺伝子浸透も見られないことから、雑種にかかる何らかの淘汰圧が存在することが示唆される。
そこで本研究では、雑種にかかる淘汰圧として成長速度が与える影響を検証することを目的とし、雑種の成長速度を親種と比較する。標本には交雑帯の中心部に位置する函館市臼尻町沿岸で採集されたアイナメ属3種およびその雑種を用い、耳石輪紋数を計数することで年齢の推定を行う。年齢と体長のデータからVon Bertalanffyの成長曲線に当てはめ、成長速度を親種と雑種で比較する。得られた結果から、交雑帯の維持に与える影響について議論する予定である。