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一般講演(ポスター発表) P2-173
低温下におけるエゾヤチネズミの免疫機能に及ぼす日長および餌の効果
楠本華織(北大院・農)
エゾヤチネズミのほとんどすべての個体群において、密度依存的な個体数の減少が冬場に強く生じることが知られている。低温下におけるエゾヤチネズミの生理機能は、冬場の個体数の減少と関係があるのだろうか。これらの関係を調べるため、生命の維持に重要な生理機能である体温調節機能と免疫機能に着目し、飼育下による実験を行った。楠本&齊藤の研究により、日長をコントロールした(12L:12D)低温下(5℃)で、免疫機能が低下することが明らかとなり、体温調節機能と免疫機能の間に拮抗的な関係があることが示唆された。しかしながら、小型げっ歯類において、短日条件により免疫能が高められることが知られている。そこで、本研究では、短日条件(10L:14D)低温下(5℃)の飼育環境下において、個体数および餌を操作した実験を行った。個体数操作実験(実験1)では、単独飼育区と集団飼育区を設定した。餌操作実験(実験2)では、全て単独飼育を行い、実験期間を通して十分量の固形飼料を与えた区、免疫後に低温下での餌要求量の90%を与えた区(餌制限区)、および固形飼料に加えヒマワリの種子とエンバク(免疫後)を与えた区を設定した。さらに、秋から初冬の野外環境下において、標識再捕獲法を用い、野外でのエゾヤチネズミの免疫能を調べた(野外実験)。実験1の結果から、楠本&齊藤の結果との比較により、短日の作用によって免疫能が高められることが示唆され、集団飼育個体の免疫能は単独飼育個体よりも高い傾向にあった。実験2の結果から、餌制限により免疫能が有意に低下することが明らかとなった。野外実験の結果では、初冬の非繁殖個体の免疫能は秋の値より低く、さらに内蔵肥大も見られた。これらの実験の結果から、冬場の密度依存的な個体数の減少との関係を考察する。