| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-183
洞爺湖中島では1980年以来、植物とニホンジカ(以下シカ)との相互影響を明らかにする目的で、シカ生息数と植生の推移が追跡されている。この間、1984年と2004年にシカの大量死が記録された。1984年の大量死は、それまでの主要な餌であったササ類や草本類が衰退・消失した後に発生した。2004年の大量死は、ハイイヌガヤがほぼ枯死・消失した後に発生した。1990年代に落葉広葉樹の落葉がシカの主要な餌となっていたが、1993年から2004年の間に自然死亡したシカの胃内容物組成は、落葉広葉樹の葉に代わるようにハイイヌガヤが徐々に増加して2003年以降急激に減少した。ハイイヌガヤの同化部(常緑)は、初冬期に広葉樹落葉(枯葉)よりも窒素(粗タンパク)含有率が高く、また構造上、積雪期に落葉よりもアクセスが容易であった。したがって、ハイイヌガヤは冬期の餌としては落葉よりも優れていた可能性がある。ハイイヌガヤは、かつて消失したササ類や草本類に代わって増加したため、不嗜好植物の一種と考えられていた。しかし、ササ類や嗜好性の高い樹種の消失、ディアライン形成にともなう生枝下高の上昇などの後には、相対的にハイイヌガヤの餌としての価値が高まったことが考えられる。これら一連の現象は、シカがその生息条件下で相対的に良質な餌を選択し、その食性は大きな可塑性をもつことを示す証拠といえるだろう。