| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-184

南九州霧島山地におけるタヌキの疥癬による個体数変動と回復過程

小金澤 正昭(宇都宮大学・農・演習林)

演者は、南九州、宮崎道(延長80.5km)での交通事故死(DORと略す)の発生原因の解明にかかる調査をおこなったところ、アンダーパスに設置したセンサーカメラに疥癬による脱毛個体が多数撮影され、同時に出現数自体が大きく減少した。そこで、異なる3つの密度指標(アンダーパス利用頻度、以下UPUと略す、DOR数、狩猟数)を用いてタヌキ個体群の崩壊と回復過程を分析した。UPUは、DOR最多発生区間(8.0kp−12.0kp区間)にセンサーカメラ(TM−550)を設置し、2001年冬から2004年冬の4年間、調査した。DOR数は、現、西日本高速道路の「巡回記録簿」から抽出した1996〜2004年の資料を用いた。また、狩猟数は宮崎県の地方事務所別狩猟統計(1996〜2006年度)を用いた。UPUは、2001、2年は比較的高く、2003年以降大きく減少した。また、疥癬症の罹患率は2001年時点が最も高く、その後、出現頻度の低下と共に減少したが、2004年は疥癬に罹患した個体は観察されなかった。宮崎道でのDOR数は、2000年に大きく減少し、2004年に回復傾向をしめした。一方、狩猟数はDOR数の減少と同調し、2000年以降、減少した。この結果、UPUも相対的な変動値と理解すれば、他の指標と同調した変化を示し、指標間に矛盾は生じないことから、今回用いた何れの指標からもタヌキの個体数の減少が読み取れ、その感度も比較的良好であると判断された。また、当地域では1999年以降にタヌキへの疥癬が発症し、2001年までの3年間に広く蔓延し、多くの個体が疥癬によって死亡した可能性が強く示唆された。さらに、個体数が減少した後に、罹患していない個体が現れたことから、疥癬の高い伝播力と個体の接触による伝播様式を考慮すると、地域個体群の内部構造として、少なくとも個体の交流頻度が異なるサブ集団の存在が示唆される。

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