| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-191

分布拡大前後の集団遺伝構造の推定:房総半島のシカを例に

*吉尾政信(東大・生物多様性),浅田正彦(千葉県博),落合啓二(千葉県博),宮下 直(東大・生物多様性),立田晴記(国環研・生態リスク)

現存する生物集団が保持する遺伝子情報から、過去に生じた個体数の増減や残存集団数を推定する試みが近年盛んに行われている。演者らはこれまで千葉県房総半島のニホンジカCervus nippon個体群について,ミトコンドリアDNAのD-loop領域(以下mtDNA)と,核DNAのマイクロサテライト領域(SSR)の多型情報を用いて,個体群構造を解析してきた. これまでのところ,mtDNAおよびSSRを用いたいずれの解析でも,遺伝的に区別可能な特徴を持つ個体が東西に分かれて分布していることが判明している.本個体群は過去に個体数が著しく減少し,現在の個体群は1970年代前半に分布の南東部に存在したとされる残存集団に由来すると考えられる.しかしながら,その後の詳細な追跡調査は近年までなされておらず、過去から現在に至る分布拡大の詳細を直接知ることはできない。

そこで本研究では,coalescent 理論に基づいたIsolation with migration モデルを用いて,SSRから推定された2集団が,1集団(祖先集団)に収束するために必要な世代数推定を試みた.得られた結果を基に,現在の集団が遺伝的に均質な1集団に起因するのか、もしくは遺伝的に異質な複数の分集団に起因するのかを推定し、過去から現在に至る分布拡大の様式について議論する.

日本生態学会