| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-193

ウスバキトンボの巨大デーム

*林文男(首都大・理工・生命)

陸上においても,海域においても,広域にわたって分布する種がいる.これらの種が,本当に単一の集団かどうかを判定するため,これまで多くの研究が行われてきた.とくに,最近のDNAの塩基配列の差異に基づく研究では,広域分布種と言えども,遺伝子流動のおさえられたいくつかの亜集団からなることが明らかにされつつある.

ウスバキトンボは,成虫の飛翔による移動分散能力が高く,蜻蛉目の中でもっとも分布域が広い.本種は,赤道を中心として地球上の両半球の熱帯から温帯域に生息する.本研究では,東アジア全域から得られた423個体について,ミトコンドリアDNAのCOI領域および核DNAのITS2領域の塩基配列を比較した.

その結果,(1)遺伝的多様性が著しく高いこと(COI領域414塩基の81箇所に変異が認められ,176種類ものハプロタイプが得られた),(2)集団全体としてよく混ざり合った遺伝的組成を有すること(ミトコンドリアDNAおよび核DNAとも,遠隔地の個体間で共有されるハプロタイプが多い),(3)遺伝子流動は頻繁であること(定点で季節を追って集団の遺伝的組成を調べた結果,絶えず新規変異個体の加入がある)がわかった.

このような遺伝子流動の大きい大集団が維持されている要因は,成虫の飛翔による分散であると考えられるが,遺伝子流動が,東アジア以外の地域にまで及んでいるかどうか,今後の研究が待たれる.

日本生態学会