| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-198

生息場所安定性がコバネナガカメムシの翅多型性に及ぼす影響について

*嘉田修平,藤崎憲治(京大院・農・昆虫生態学)

分散性に多型性をもつ昆虫は分散多型性昆虫とよばれ、その中でも翅長に変異があるものは翅多型性昆虫と呼ばれる。翅多型性昆虫において、分散型である長翅型が出現する頻度を長翅率と呼ぶが、長翅率は寄主植物の栄養要因や生育密度、そして個体群がどれくらいの期間安定的に存在するか(生息地永続性)などの、様々な要因で決定される。よって、複数の寄主植物で個体群を形成する翅多型性昆虫においては、それぞれの寄主植物ごとに、異なる適応をしている可能性があるだろう。コバネナガカメムシは、明瞭な翅多型性をもち、湖沼に生えるヨシと河川に生えるツルヨシの2種のイネ科を主な寄主植物とする。ヨシとツルヨシの間には、餌としての質の違い、そして生育する環境の安定性の違い、および卵寄生蜂による寄生圧の違いがある。ヨシ個体群とツルヨシ個体群の間で、室内および野外実験で形質を比較して、餌の質・個体群の安定性・卵寄生率の3つの要因が翅多型性に進化的な影響を与えているかどうかを検証した。

まず、室内飼育から、餌のパフォーマンスはツルヨシで高く、また長翅率はヨシで高く、餌の質が低い方が長翅率が高くなっていたといえる。また、由来を操作した室内実験により、ツルヨシ個体群由来のものを生育させた方が、ヨシ個体群のものよりも長翅率は高い傾向にあることが分かった。それは、ツルヨシ個体群は不定期に起きる河川の洪水のために個体群密度が減少することがあり不安定な生息場所であるために、本種は長翅率を高くして頻繁に分散していることが示唆された。寄生率は個体群間で決まった傾向がなく、寄生率が長翅率の高さに寄与している可能性は低いといえた。

これらの結果から、本種の長翅率に与える要因として、餌の質の効果が長翅率に影響があるのに加えて、生息場所の安定性の効果が本種に対して遺伝的に大きな影響を及ぼしていると考えられた。

日本生態学会