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一般講演(ポスター発表) P2-202
多くの動物は左右非対称な内臓を持つ。内臓の左右性は初期発生の左右性と一致すること、進化過程で一般的に変化しないことの二点で外部形態の左右性と異なる。例外的に巻貝や線虫では内臓の左右反転した左型系統が進化したが、その数は非常に少ない。発生拘束仮説は、発生の左右反転が異常を引き起こすからだと説明する。我々は右巻種のオナジマイマイで見つかったラセミ変異を利用することでこの仮説を検証した。ラセミ変異のホモ接合体が産む卵塊からは右巻と左巻が孵化するが、ほとんど卵塊で右巻が左巻より多く孵化する。この原因は、もともと右巻胚が左巻胚より多いから、または右巻と左巻の胚の数は同じだけれど左巻が死にやすいからのどちらかである。前者が原因なら、発生の左右反転は孵化までの生存率に影響しないことになる。一方、後者が原因なら、右巻と左巻の兄弟は平均して遺伝的に同じなので、左右逆の発生それ自体が孵化率を低下させることを意味し、発生拘束仮説を支持する。巻貝はらせん卵割をするため8細胞期ですでに左右性の判別が可能である。そこで、8細胞期で大割球と小割球のずれ(らせん度)の方向と角度を測定し、胚の左右性とその程度を定量的に測定した。その結果、右巻と左巻の胚はほぼ同数で、らせん度の分布はゆらぎ左右性を示した。らせん度と孵化率に正の相関が見られ、らせん度が同じなら左巻の孵化率が右巻より低かった。これらの結果は左右性が偶然で決まることを示唆し、発生の左右反転と孵化率低下の因果関係を証明している。本研究は形態形質のエピジェネティックな相互作用が形態進化の方向に影響することを実験的に示している。