| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-208
侵略的外来生物の蔓延を防止するためには、その侵入・分布拡大経路を解明することが重要である。アルゼンチンアリ(Linepithema humile)は南米原産だが、過去150年の間に世界各地に侵入し、在来アリの大部分を駆逐するなど生態系に大きな被害を与えてきた。近年日本にも侵入を果たし、主に西日本で分布を拡大しているが、その侵入・分布拡大経路は明らかでない。
アルゼンチンアリの場合、その特殊な社会構造「スーパーコロニー(SC)」が侵入履歴を探る強力な手がかりとなる。SCとは相互に敵対の起こらない複数の巣の集合であり、その規模は、離れた巣の個体同士が直接出会うことのできないほど巨大になりうる。一般に、敵対的なSC間では遺伝子流動がほとんど起こらないため、行動学的・遺伝的に異なるSCは別々の侵入履歴をもつ可能性が高い。
また、SCの形成は、アルゼンチンアリが侵入地において在来アリを駆逐する主要因のひとつと考えられている。本種はSC形成によって巣のなわばり防衛に関するコストを削減でき、在来アリを圧倒する高い生息密度を獲得できるのである。
我々は、アルゼンチンアリ日本個体群の侵入履歴を考察するため、国内主要生息地から生体を採集しそれらの行動学的関係を調査した。その過程において、兵庫県神戸港で4つの相異なるSCが発見され、神戸港には本種が4回以上侵入したことが示唆された。さらなる遺伝子解析により、この仮説を検討する必要がある。神戸港のように狭い範囲内に3つ以上のSCが存在する例は世界で初めてである。
また、敵対的なSC同士が非常に接近した場所が発見され、かつそこでは在来アリがまだ駆逐されず生息していることが確認された。この場所において将来、アルゼンチンアリの社会構造(種内敵対性の有無)と在来アリに対する競争力の関係を検討できる可能性がある。