| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-246
現在、地球温暖化に伴う地温上昇により、炭素のシンクである土壌からの土壌呼吸量の増加が示唆されている。従来、さまざまな森林生態系において、土壌呼吸の定量的把握に関する様々な研究が行われてきた。しかし、地温上昇が陸域生態系の物質循環にどのように影響を与えるかを予測し適切に対応するためには、フラックスだけでなく、土壌有機物分解の内容を理解することが不可欠である。
そこで、模擬温暖化チャンバーを用いた野外インキュベーションを行い、地温上昇に伴う土壌有機物の量的および質的変化を明らかにすることを目的とした。研究対象地点は冷温帯ミズナラ林下の褐色森林土である長野県筑波大学川上演習林とした。
試験は、土壌呼吸も測定可能なアクリル製の簡易温暖化チャンバー区、温度と時間が調節可能な赤外線ランプ照射を行ったチャンバー区、非加温の対照区を設置して、地温(土壌深:5cm)と土壌水分の測定を行った。また、1ヶ月毎に土壌呼吸速度(Li-820)の測定を行い、試験後に採取した各区の土壌試料(表層0-5cm)を分析に供した。土壌呼吸速度に対して土壌水分の影響は認められず、地温上昇に伴い増加した(r=0.82)。また、土壌呼吸速度が高い区ほど、全炭素量の減少に伴い交換性塩基量も減少し、酸緩衝能に影響を及ぼすことが示唆された。また、地温が高い区ほど、ヘミセルロース量と比べてセルロース量が大きく減少し、微生物の選択的分解が考えられた。また、安定に存在すると考えられる腐植物質である腐植酸、フルボ酸も減少傾向を示し、それぞれの温度応答が異なった。このように、地球温暖化に伴う地温上昇は、有機物分解を促進し、森林生態系の物質循環に影響を及ぼすことが示唆された。