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一般講演(ポスター発表) P2-253
河川を堰き止めるダム湖には多くの有機物が流入するため、湖内においてその分解産物であるCO2やCH4が多く生成している可能性がある。しかし、ダム湖におけるこれら温室効果気体の生成・循環過程は殆どわかっていない。そこで本研究は、山梨県内のダム湖を対象に、流出入河川の炭素フラックス、湖内におけるCO2・CH4の濃度分布および大気とのガス交換速度を測定し、炭素安定同位体分析を併用することで、湖内で生成する温室効果気体の起源と循環経路を追跡した。さらに、分子生物学的手法を用いて、湖内のガス代謝を担う微生物群の特定を試みた。
解析の結果、湖には季節を通じて陸上有機物を主体とする粗粒有機物が蓄積していること、また嫌気的な深水層でCO2やCH4が多く生成していることを明らかにした。DGGE解析により、ダム湖深水層のCO2の生成過程としては、硫酸塩呼吸が重要であることが示唆された。メタンについては、湖底付近で主にCO2とH2を基質とした生成経路が駆動していると考えられたが、16S rDNAを対象としたクローニング解析により酢酸を基質とした生成系も重要であることが示唆された。
しかし、このような深水層におけるCO2・CH4のダイナミクスは、大気とのガス交換に大きくは影響していなかった。湖は春から夏に大気からCO2を吸収し、秋以降に放出していた。この放出速度は、表層における光合成活性と関係していた。一方、CH4は春から夏に放出量が多かった。この湖面から放出されるCH4は、湖底付近で生成しているCH4とは起源が異なり、表水層付近で生成したものと思われた。この好気環境におけるメタン生成機構には、動植物プランクトンなどが関与しているのではないかと考えている。