| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-254

熱帯林生態系におけるポリフェノール動態への樹木種の影響

*潮雅之, 和穎朗太, 北山兼弘(京大・生態研センター)

ボルネオ島キナバル山の熱帯山地林は針葉樹と広葉樹が共存して、樹種多様性が高い。そこに生育する樹種はそれぞれ量、質ともに特異的なリターを土壌に供給している。土壌に供給されるリターの化学成分の中でも、量的に大きな割合を占めるのがポリフェノールである。ポリフェノールは地上部や土壌において大きな生態学的意味を持つ化合物群である。一般に、地上部においては植食者に対する防衛物質の役割を持つ。一方で、土壌においては土壌微生物によるリターの分解を阻害することで、森林生態系の物質循環に大きな影響を与えていると考えられている。しかし、多様なポリフェノールの土壌分解系に対する作用は幅広く、その役割や動態はほとんど未解明である。従って、ポリフェノールの質や量の違いが土壌分解系にどのような影響を与えるのかを議論することは現時点では難しい。そこで本研究では、キナバル山の原生林を自然のポリフェノール施肥実験場と捉え、質と量の異なるポリフェノールを生産するDacrydium pectinatim(マキ科針葉樹)とLithocarpus clementianus(ブナ科広葉樹)の二種を対象とし、それぞれの樹木直下の土壌でポリフェノール(総フェノール、縮合タンニン)濃度と土壌酵素(C、P、ポリフェノール分解に関わる酵素)の活性がどのように空間的に変化していくのかを、樹幹からの水平距離、土壌深度別に調査した。その結果、表層土壌のポリフェノール含有量は生葉のポリフェノール含有量を反映するような空間パターンを示し、そのパターンはより深い土壌層に達するに従って消失した。また、樹種ごとに土壌酵素活性も異なっており、土壌のポリフェノール含有量が有意な影響を与えていた。これらの結果は、土壌の分解系やポリフェノールの動態がそこに生育している樹種の生産するポリフェノールの質と量によって異なる可能性を示唆している。

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