| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-259

カワウの営巣が森林の養分動態と植生に与える長期的影響

*亀田佳代子(琵琶湖博), 保原達(酪農学園大・環境システム), 石田朗(愛知県カワウ研究会)

カワウは大型の魚食性水鳥であり、森林で繁殖することで、排泄物という形で多量の養分を森林に供給する。カワウの営巣により樹木は枯れ、森林は草原へと変化するが、カワウがいなくなった数年後には森林が回復する場合もある。また、カワウが営巣した森林の土壌では、カワウがいなくなった後でも窒素の分解過程が営巣前の状態とは異なっていることが、発表者らの研究からわかってきた。これらのことから、カワウの営巣による森林の衰退と回復の過程は条件によって大きく異なり、その変遷は長期時間スケールでとらえる必要があることがわかる。特に植生や養分動態の変化は、ある閾値に達すると別の状態へと大きくシフトする可能性が考えられ、長期時間スケールでとらえることで、その変遷を明らかにできる可能性もある。

そこで本研究では、さまざまな営巣履歴を持つコロニーの養分動態や植生の変化を比較することで、カワウ営巣林の衰退―回復過程の変遷を明らかにすることを試みた。具体的には、営巣履歴の異なる3か所のカワウコロニー、伊崎半島(滋賀県)、竹生島(滋賀県)、鵜の山(愛知県)において、土壌および林床草本の窒素同位体比および窒素含量を分析し、比較を行った。

その結果、全てのコロニーにおいて、土壌有機物層と林床草本は窒素同位体比が類似すること、営巣直下の土壌では現在の養分供給の影響を強く反映することがわかった。しかし、有機物層と鉱質土層を比較すると、過去にカワウの養分供給の影響を受けていないコロニーと受けたコロニーでは、窒素同位体比の変化が異なることが明らかとなった。このことから、カワウの営巣の影響を長期または頻繁に受けた森林では、土壌の窒素分解過程が大きく変化するものと考えられた。

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