| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-267

立山高山帯のハイマツ樹冠における水・物質動態

*上原佳敏(富山大・理・生物圏),久米篤(富山大・理・生物圏),張勁(富山大・理・生物圏)

年間平均気温が低く,土壌中の微生物の活動が不活発な高山では,有機物の分解も遅いため,植物は貧栄養な環境におかれていると考えられる。このような環境では大気からの植生に対する栄養塩供給の評価は重要である。そこで,林内雨と降水及び霧水を測定・分析する事で,水が樹冠を通過する際に生じる化学変化とその量から,湿性及び乾性沈着した物質のハイマツ群落への影響を評価する事を目的として研究を進めている。北アルプス・立山の浄土平(標高2860m)において,無降雪期7月から10月にかけてほぼ毎週,降水・霧水を採水した。浄土平で優占して生育しているハイマツ群落に,雨樋を加工して作った常時開放型雨量計を設置し,林内雨を採水し,イオンクロマトグラフを用いてイオン主成分を分析した。林外雨量と林内雨量を比較すると,平均して50%を越える降水がハイマツ樹冠によって遮断されていた。また,樹雨現象によって林外雨量に比べて,林内雨量のほうが多くなる事もあった。樹冠への霧水沈着量は降水の10%以上に相当し,霧も林内雨としてハイマツ土壌に供給されていた。化学成分を比較すると,霧水中のイオン成分も降水に比べて高濃度で存在していた。林内雨中の各種イオン濃度は林外雨よりも高かった。Na+ ,Ca+及びSO42-は,乾性沈着や霧水によって林床に供給されていた。K+やMg2+はハイマツ樹冠から溶脱していると考えられた。林内雨中のNO3やNH4+などによる窒素沈着量は,林外雨に比べて大幅に減少しており,無降雪期の浄土平に沈着した湿性沈着の80%程度がハイマツ樹冠によって吸収されていた。乾性沈着も考慮すると,ハイマツ樹冠は非常に高い効率で窒素を吸収していることが示唆された。

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