| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-268

土壌中の無機態窒素と植物の硝酸同化活性の温帯二次林における季節性

*上田実希(京大・農), 徳地直子(京大・フィ研)

窒素は多くの陸上生態系において植物の成長の律速となり、多くの場合土壌からの無機態窒素(硝酸態・アンモニア態)の吸収が植物にとって最も重要な窒素の獲得経路である。このため、植物の窒素獲得を考える上で、土壌窒素動態の理解が重要となる。また、土壌微生物は窒素動態を規定するとともに、窒素獲得において植物と競合する。そこで、本研究では土壌無機態窒素と土壌微生物現存量、植物の硝酸同化の指標である硝酸還元酵素活性(NRA: Nitrate Reductase Activity) の関係について考察する。

京都市北部の温帯二次林において、土壌中の無機態窒素現存量、実験室培養法による無機態窒素生成速度と、土壌微生物現存量の測定を行った。さらに、二次林内に生育する高木・亜高木のうち優占度の高いもの10種を選び、NRAを測定した。これらの測定は3ヶ月おき(8・11・2・5月)に行った。

その結果、土壌の硝酸・アンモニアの現存量とアンモニア生成速度には有意な季節性は見られなかったが、硝酸の生成速度には有意な季節性が見られ2月に最大になった。また、微生物現存量にも有意な季節性が見られ、11月に最大になった。一方、NRAに関しては常緑樹だけでなく落葉樹を含むほとんどの種で2月に高く11月に低くなる傾向が見られた。

以上の結果から、冬季も含め年間を通して同程度の無機態窒素が土壌中に存在するが、硝酸の生成は冬に増大し、常緑樹・落葉樹ともに硝酸同化活性が高まる冬季に基質である硝酸が得やすくなることが示唆された。冬季は樹木の成長は小さく、特に落葉樹は葉がないが、冬季は植物の窒素獲得において重要な時期である可能性が示唆された。また、土壌微生物現存量は秋に最大となり、植物の硝酸同化活性とは異なる季節性を示した。

日本生態学会