| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-270
半乾燥地において、過放牧に伴う、家畜の糞尿による、土壌への栄養塩類の過剰付加が指摘されている。そこで本研究では、気象条件と土壌の水分移動特性に大きく依存すると考えられる土壌中の塩類の溶脱過程を数値予測し、土壌中の塩類の増加を伴う過放牧地における禁牧の有効性について検討した。
モンゴル国のフスタイ国立公園にある放牧家畜数が既知である家畜のキャンプ地を対象とし、土壌サンプリング(0-5,5-10,20-25,30-35cm)を行った。水分移動特性はマルチステップ法により求め、1:5水抽出のEC値をNaCl濃度に換算することにより塩濃度を求めた。また、気象データは調査地付近の過去10年間の日データ、植物パラメーターについては仮定値を用いた。数値予測には土壌中の水分・熱・溶質移動および蒸発散の数値予測モデルWASH_1Dを用いた。
その結果、土壌中にNaClが0.34mol (2000ppm) 程度存在すると想定できる過放牧地の場合、対象地の土壌および気象条件では、表層の塩濃度は十分に低下しないこと、そして、0.017mol (1000ppm) 程度存在する場合には、表層の塩濃度の溶脱は進行するが、深さ10-20cmにおける塩分濃度が高まる傾向が明らかとなった。このことから、調査地において禁牧した場合、過放牧地においては10年以上経過しても塩の溶脱は十分進行せず、植生の回復も期待できないことが示唆された。よって対象地では一度過放牧により塩類が集積してしまうと容易に塩類の溶脱は進行せず、回復には10年以上の長期禁牧を要することが示唆された。