| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-272

炭素安定同位体比を用いた熱帯性海草ウミショウブ群落の健全度の評価

*田中義幸,宮島利宏(東大海洋研),坪井良恵(CERI),小池勲夫(琉大)

広範囲にわたる海草場の健全度測定の指標として、フィールド調査を迅速に実施できる手法が求められている。海草の葉の炭素安定同位体比(δ13C)は、生長速度と正の相関を持ちうることが知られているが、基質である海水中の溶存態無機炭素(DIC)の濃度や、そのδ13Cなどの環境要因の変動からも大きな影響を受ける。また、海草の生長には光、底質環境など多くの要因が関与する。これまでに、深度に応じて光の条件が明確に異なる地点間では、浅く生長速度が大きい地点で葉のδ13Cも高くなることが指摘されているが、本研究ではより一般的な指標開発を目指して、水深の変化が小さい地点間で、葉や DICのδ13Cがどの程度ばらつくかを明らかにし、DIC補正後の、葉のδ13Cと底質環境を比較した。

本研究は、2006年12月に、タイ南西部の海草群落10地点にて行った。各地点で、この地域で最も広範囲に分布するウミショウブ( Enhalus acoroides )の株数を10回ずつ計測した。各地点よりδ13C分析用のウミショウブを10株採集、海水を採集してDICのδ13Cと濃度ならびに塩分を測定した。また、堆積物を採集し、粒度分析を行った。

各地点の株数は4.0〜21.6 m -2、葉のδ13Cは-10.8〜-7.0‰、DICのδ13Cは-3.3〜0.2‰、DIC濃度は1.81〜1.90 mM、塩分は26.2〜28.8、堆積物中のシルト・クレイの比率は、2.0〜25.8%だった。DICを補正した葉のδ13Cは地点間で有意に異なり、δ13Cによる生長量推定の可能性を示唆した。一般に、海草の分布種数・生物量・生長量が低下することが多いシルト・クレイの比率が高い地点にも、δ13Cが高い地点が認められた。

日本生態学会