| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-275

河川の流下に伴う食物網の炭素窒素同位体比の変化-仁淀川の例

*鎌内宏光(京大・フィールドセンター),新井宏受(京大・農),福島慶太郎(京大・農),福澤加里部(京大・フィールドセンター),土居秀幸(愛媛大・農),富永浩史(京大・理),近藤千眞(ブリジストン),徳地直子(京大・フィールドセンター)

河川生態系における物質循環様式は上流から下流への流下過程で劇的に変化するといわれている。上流では川幅が狭いため周囲の森林に遮光されて河川内での光合成生産は低く、食物網は森林など陸上から供給される落葉をはじめとした他生性有機物に依存している。しかし下流では川幅が広くなるため光が河床に達して光合成による自生性の有機物生産が増加し、食物網への有機物供給における陸上由来有機物は相対的に少なくなる。従ってこうした変化は物質循環やそれら有機物を利用する水生生物に影響すると考えられる。そこで本研究では高知県中部を流れる仁淀川において、源流から感潮域直上までの5地点で水生生物及び有機物を採取し、炭素及び窒素の安定同位体比の流程変化を明らかにした。その結果、水生無脊椎動物の同位体組成は調査地点のそれぞれで付着藻類食者、堆積有機物食者、捕食者の順に炭素及び窒素同位体比が重くなる傾向が見られ、食性に対応した同位体濃縮が見られた。また源流域から中流域にかけては食物網全体の炭素同位体比が次第に軽くなる傾向が見られたが、下流域では逆に重くなる傾向が見られた。一方窒素では源流域の破砕食者や中下流域の付着藻類食者といった一次食者の同位体比が流下に伴って重くなる傾向が見られた。これらの結果から、源流域では落葉に依存した食物連鎖が優占するものの、中流にかけては付着藻類に依存した食物連鎖が次第に優占するようになることが定量的に明らかとなった。しかし下流域ではこうした有機物供給様式の変化以外の要因が作用しているものと考えられた。

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