| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-276

モデルによる森林生態系のCO2交換量の推定:「よい」モデルについて考えながら

*大場真(環境研)

陸上生態系における二酸化炭素交換量NEE(Net Ecosystem Exchange)は,微気象学的手法により現在多数のサイトで連続観測されている。しかし,測定の欠落や点測定であることなどから,長時間・広空間スケールにおける交換量の推定には,補間やモデルが必要となる。演者は環境要素からNEEを推定する補間モデルとして,人工ニューラルネット(ANN)や,ANNを遺伝的アルゴリズムによって最適化をするするモデル(Genetic Neural Network),Kohonenの自己組織化マップ(SOM)を利用したANN(SONN)を開発した。これらのモデルと複数サイトの品質管理済みの半時間NEEデータを用いて,広く行われている非線形回帰による補間モデルと比較を行った。その結果,新しく開発した補間モデルは従来の方法と同等かそれ以上の性能を持つことが示された。

新しく開発した適応的補間モデルは,生態系の知識を必要とせずに,精度よく予測を行うことができる。しかし,精度(例えば平方平均二乗誤差)という計量可能な尺度は一面的なものである,という問題を生じた。半時間ごとの予測誤差がそれぞれ小さい場合でも,予測値ごとにバイアスがあれば,積算値の誤差は大きなものとなる。この問題は,瞬間値と積算値の誤差を最小化するようにモデルを適応させることで解決できそうであるが,二つの精度尺度をどのように統合化すればよいかという問題が残る(問題はすり替えられただけである)。

「よいモデル」とは,実際に使用する目的を満たすモデルを指していると言える。これは結果的に「よいモデル」が無数に存在する可能性を示している。この無数のモデルに何らかの秩序があるのか,それが自然界の複雑性と関係があるのか,それとも単なる功利的な動機の投影なのか調べることは今後の課題であり,無数のモデルを縦覧可能なツールの出現を待たなければ答えられない課題とも言える。

日本生態学会