| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-277
近年、化石燃料の消費や鉱物採掘に伴う環境の水銀汚染が世界的に深刻な問題となっている。本研究では日本においてこれまでに測定・公表された例が少ない、自然環境中における水銀存在量を連続的に測定し、森林集水域内への水銀沈着から流出に至るまでのプロセスを考察することを目的とした。2006年4月〜2007年11月、滋賀県南部の桐生水文試験地において、林外・林内雨、土壌水(リター層下、地下10cm)、地下水、渓流水6地点、湿地地下水を採取し、その水銀濃度および溶存有機態炭素(DOC)濃度を測定した。水銀濃度分析には硫酸還元気化−およびアルカリ還元気化−金アマルガム法の2種類を行い、波長253.7nmにおける冷原子吸光法を用いて測定した。リター層下の土壌水中の水銀濃度が最も高く(平均24.6ng/L)、土壌深部ほど低下した。また、林外雨(平均6.39ng/L)と林内雨(平均13.0ng/L)中の水銀濃度に比べ渓流水中の濃度(平均5.50ng/L)は低く、森林集水域中に水銀が保持されていることが示唆された。湿地深部の地下水では常に高濃度の水銀(平均678ng/L)が存在した。土壌水中の水銀は平均71%が溶存態であるのに対して湿地地下水では平均99%が粒子態であり、存在する水銀の形態の違いが明らかになった。また、土壌水中の水銀濃度とDOC濃度との間には正の相関が見られ、土壌内の水銀動態にDOCが関わっていることが示唆される。また土壌水中の水銀濃度は降水量の増加に伴い濃度が上昇する傾向があった。大気中の水銀は森林集水域中に,乾・湿性沈着と同程度に樹冠による水銀吸着後に落葉として沈着する。このことは土壌内でのリター分解後、水銀がDOCと結合した形態となり降水時にDOCとともに渓流内へ流出することを示唆している。