| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-281

モンゴル国ウランバートル市の下水処理場からの排水流出とそれが湿地・河川環境に及ぼす影響 -安定同位体比による評価-

伊藤雅之(京大農),真壁明子(東工大),竹門康弘(京大防災研),高津文人,陀安一郎,由水千景(京大生態研)・Tumursukh, (Geoecology, Mongolia),大手信人(東大農),木庭啓介(農工大),藤田昇(京大生態研),Javzan, C., Bayansan, T., Saulyegul, A.(Geoecology, Mongolia),永田俊(京大生態研)

ウランバートルでは市の南側を流れるトール川において劇的な河川水質の悪化が見られ、市の人口の急激な増加に伴った下水排水の流入の影響とみられる。この排水が周辺の河畔湿原や河川の生態環境に及ぼす影響を把握するため、排水流出口、排水を起点とする支流、トール川本流とそれらに囲まれた湿原域において、河川水・湿原表層地下水・湧水・池水を採取し各種水質項目(水温,pH, EC,各種溶存イオン濃度)及びそれらの安定同位体比を観測した。排水が直接流れ込む支流の汚染は著しく、その流入により本流の水質が大きく変化した。また、処理場と本流の間に位置する湿原地下水・池水も排水による汚染の影響を大きく受けていた。同時に行った開水面・地下水面高の測定による現場の水文調査から、処理場側から本流に向かう地下伏流水の移動が示唆された。湿原域では蒸発や揮発による塩分濃縮などの水質変化が、また本流付近では地下水と混合希釈と見られる各種イオン濃度の低下が観測された。一方湧水は非常に低温かつ表層地下水や開水と大きく異なる水質、同位体比を示し、地下深部を長時間かけて浸透する際に受ける生物地球化学反応の結果と考えられた。不十分な下水処理排水の流入は周辺の湿原や河川のもつ自浄能力を大きく超える汚染物質を負荷し、河川水質を大きく変質させることが明らかになった。

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