| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-287

隣接する集水域間で水質の違いを生じる要因

*阿方智子(京大・農),福島慶太郎(京大・農),徳地直子(京大・フィールド科学教育研究センター)

森林集水域の水質形成に関わる要因は数多く、気候条件、植生、基岩、土地利用などが挙げられ、地形もその1つであると考えられている。特に小規模な集水域では、隣接していても集水域ごとに渓流水の化学成分に違いが出ることが既存の研究で示されており、地形が集水域の物質循環に影響を及ぼすことが示唆されている。本試験地は約1000haの範囲に複数の小規模な集水域が隣接しており、試験地内での気候条件や基岩の違いは小さいと考えられる。さらに全体がスギ・ヒノキ人工林のため、植生の違いとして挙げられるのは主にスギ・ヒノキの林齢である。そのため、集水域ごとの渓流水の水質形成要因はほぼ地形条件と林齢のみに限定できると考えられる。そこで本研究では、まず対象とする集水域についてGISを用いて地形に関するパラメーターを抽出し、水質形成要因となりうるものを検討した。次に、各集水域の渓流水の溶存成分濃度を比較し、地形その他の水質形成要因との関係を解析した。

調査は、奈良県南部の護摩壇山試験地にある32の集水域で行った。渓流の水質データは、2003年に32集水域から2週間毎に採水された渓流水を対象とし、Cl, NO3, SO4, HCO3, Na, NH4, K, Mg, Ca, Siの10項目を用いた。地形データは、面積・標高・Topographic Index・傾斜角度・斜面方位の5項目に着目した。これらは、セルサイズ10mのDEMを用いて、ArcGIS で算出した。その結果、NO3濃度はスギ・ヒノキの林齢に最も強い負の相関を示したが、Na, Mg, Ca等の濃度には標高と強い負の相関が認められ、溶存物質ごとに各水質形成要因の寄与が異なることがわかった。

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