| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-290

青海・チベット高山草原における生態系呼吸の分離

*張 鵬程(筑波大・院・生命環境),唐 艶鴻(国立環境研),廣田 充(筑波大・菅平実験セ),鞠子 茂(筑波大・院・生命環境)

生態系呼吸は、植物(独立栄養生物)による呼吸と微生物(従属栄養生物)による呼吸の総和であり、それぞれの環境応答性は異なっている可能性がある。そこでこれら2つの呼吸を分離し、個別にそれぞれの特性を明らかにすることは重要である。特に、温暖化に代表される環境変化に対する応答を理解することは極めて重要である。そこで、本研究では、チャンバー法を用いた生態系呼吸の分離技術の確立を目的とした。ここで提案する分離技術とは、呼吸量とバイオマスの間に見られる直線関係を利用したこれまでの直線回帰法を改良したものである。従来は、土壌呼吸と植物地下部バイオマスの関係を利用してきたが、ここでは測定した生態系呼吸量と植物バイオマスの関係式から、微生物呼吸を推定し、植物呼吸との分離を試みた。

本研究は、2005年7月にチベット草原の典型的な高山草原である三つのKobresia群落を対象として、各20点の生態系呼吸、土壌呼吸、植物地上部および地下部バイオマスを観測し、従来の分離方法と今回の生態系呼吸の分離方法の比較検証を行った。

いずれの群落においても、生態系呼吸量と植物バイオマスの高い正の相関が見られた。一方、土壌呼吸量と地下部バイオマスの相関は低かった。また、本分離法で得られた微生物呼吸の値が従来の分離法で得た値より低いことが分かった。これは土壌呼吸測定の際に行った植物の地上部切除による呼吸活性の増大により、植物を除去しない場合の土壌呼吸量より高くなったためと考えられる。これより、本研究で構築した分離法は従来の分離法より高い精度を持つこと、生態系呼吸に注目した呼吸の分離が可能であることが明らかになった。この手法を用いることで、植物および微生物呼吸を精度良く評価できるだけでなく、それぞれの環境依存性の解明も期待できる。

日本生態学会