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一般講演(ポスター発表) P2-291
干潟に棲息する底生動物は、その生物的攪乱作用により干潟の物質循環に影響を与えることが知られている。しかし物質循環に対する巣穴形成の影響について定量的評価をした研究は少ない。本研究ではアナジャコ(Upogebia major)が棲息している河口干潟を対象とし、その巣穴形成がCO2フラックスと微生物群集に与える影響を調査した。
調査はアナジャコが高密度で営巣している広島県黒瀬川河口干潟で行った。干潮時に干潟表面からのCO2フラックスを携帯型の赤外線ガス分析器(IRGA)を用いたDynamic-closed-chamber法により測定した結果、巣穴が有る場所の方がそうでない場所に比べて高い値を示した。また巣穴が有る場所と無い場所から、干潟表層堆積物(0cm〜5cm)をコアサンプラーで採取し、IRGAを用いたOpen-Flow法により干出状態のCO2フラックスを測定したところ、巣穴が有る方が無い方に比べ約80%〜30%高い値を示すことが確認された。
営巣によりCO2フラックスが変化する原因について調べるため、微生物バイオマス、群集構造の指標としてリン脂質脂肪酸(PLFA)分析を行った。PLFA分析の試料は、巣穴の無い場所からと巣穴が有る場所からそれぞれ採取した。巣穴の有る場所からは巣穴壁面とその他堆積物を含む試料と巣穴壁面のみ(壁面から内側5mmまで)の試料の2種類を採取した。微生物バイオマスの指標である全脂肪酸量は、巣穴の有無による明確な傾向は認められなかった。以上の結果から、巣穴の形成は干潟堆積物の微生物活性や物質の拡散のしやすさに影響を与えている可能性が考えられる。