| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-292

佐鳴湖における食物連鎖の解明

*戸田三津夫(静岡大・工),上原和也(静岡大院・工)

佐鳴湖は静岡県浜松市の西部にある広さ約120 ha、水深2 mほどの汽水湖で、浜名湖に通じていて潮汐の影響が非常に大きい。全国の湖沼の水質改善が少しずつ進む中、環境省が毎年発表する公共用水域水質測定結果(COD評価)で、6年連続ワーストの評価を受けている。汚濁原因は、地勢、周辺の開発、水文上のものがあるが、COD値が10 ppm程度と高いものの、貧酸素による生物の斃死はみられず、高い内部生産に支えられた豊かな生態系も存在し、50種ほどの魚が季節ごとに入れ替わりながら生息している。また、都市部の負荷から浜名湖を守り、各種魚類の稚魚育成の場としての役割もあると推定される。

我々は、この佐鳴湖の汚濁機構に関連の深い窒素循環と炭素循環に興味を持ち、流入河川の表流水、湧水、上流部の地下水、湖水、生物サンプル、SS等の各種サンプルの安定同位体比を分析することにより、食物連鎖と物質循環を明らかにする目的で調査を行った。

分析値は、河川ごとに農業(肥料)由来と推定される窒素流入や生活排水由来の負荷があることを裏付ける結果を示した。また、食物連鎖の状況は驚くほど単純で、一次生産者(植物プランクトンなど)、一次消費者(ニホンイサザアミ:Neomysis japonicaを主体とする動物プランクトン)、上位消費者(各種魚類)の三つの食物段階があることが推定された。上位捕食者にはハクレンからスズキに至る多くの魚が含まれていた。

佐鳴湖の生態系を資源利用と環境改善の両面からみるとき、主に秋から春にかけて大量に発生するニホンイサザアミに注目すべきであることが判明した。

日本生態学会