| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-298
いくつかのイネ科草本種では,地上部に植食を受けた直後に,細根からの水溶性有機物の滲出量が増加し,土壌中の微生物や土壌動物の活性が高まって,窒素の無機化が促進されることが,先行研究により確かめられている.しかし,植食強度に対する反応の違いは,十分明らかにされていない.そこで,林床を覆うミヤコザサに対するニホンジカの夏季の採食を模した野外摘葉実験を行い,摘葉強度と土壌micro-foodweb(主に細菌,糸状菌,原生生物,線虫からなる代謝回転の速い食物網)構造および窒素無機化速度への影響との関係を調べた.摘葉から8日後に土壌の測定を行ったところ,水溶性炭素量や細菌・糸状菌バイオマスには摘葉による増加はみられなかったが,細菌食者である原生生物やPlectidae科線虫,および窒素無機化速度が,摘葉強度に対して一山型の増加反応を示した.これは,中程度の強度の摘葉後1週間に,根滲出量の増加と,それに続く細菌バイオマスの増加とが起きた結果と考えられる.さらに,細菌食者の捕食,排泄による細菌バイオマス窒素の解放が,窒素無機化速度の変動に大きく貢献したものと推測される.次に,根滲出物の供給を模して土壌にグルコースを添加する実験を行った.添加直後には微生物活性(土壌呼吸量)が急激に高まったが,1週間後には水溶性炭素量,土壌呼吸量とも添加前の水準に戻り,一方で土壌線虫個体数の増加が認められた.これは,野外摘葉実験における摘葉8日後のパターンが,摘葉直後の根滲出量の増減によるものであるという仮説を支持する結果である.本研究より,ササへのシカの夏季の採食は,おそらく採食強度に応じた根滲出量の増減の反応を介して,土壌中での窒素無機化速度に対し弱度なら正の,強度なら負の影響をもたらすことが示された.