| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-304

カタクチイワシの2つのタイプについてー安定同位体比を用いた食性解析ー

*宮地俊作(日大・生物資源),馬谷原武之(日大院・生物資源),河野英一,笹田勝寛(日大・生物資源)

前大会で鹿島灘や九十九里浜沖の外洋産カタクチイワシより,相模湾や瀬戸内海産の沿岸域カタクチイワシのδ15N値が高いことが明らかになった.また,沖合域に比べて,沿岸域の食物網は窒素を初めとする海域の富栄養化の影響を受けていることが示唆されたという発表を行った.

今回は相模湾のカタクチイワシを中心に調べた.成魚・未成魚は相模湾内の定置網により水揚げされた個体,シラスはシラス漁による生シラスとシラス干しを用いた.また,煮干しは自作,または産地表示の明確なものをサンプルとした.

シラスは標準体長30ー40mmで変態することが示唆されたことは,Lindsay(1997)等の結果と一致する.鹿島灘に比べ,相模湾のδ15Nが高いことは,田中(2005)の結果と一致するが,相模湾の成魚でδ15Nの低いものがあることが分かった.Lindsayや田中の報告では高いことしか触れていないが,両者のサンプルには成魚(体長100mm以上)が含まれていなかったため,見逃されていたものと考えられる.相模湾でも体長と安定同位体比の関係を調べると2つのタイプがあることが明らかになった.2つのタイプのカタクチイワシが存在することは,異なった栄養段階を反映したのか.栄養段階は同じだが摂餌したプランクトンの安定同位体比が元もと異なっていたことを反映したのか解明が必要である.カタクチイワシのδ15Nが,なぜ,鹿島灘等黒潮続流域の値は低く,相模湾産では高いのかを解明する鍵もここにあると考えられる.

今後の課題として,相模湾における食物網の解析,餌であるプランクトンの解明,沿岸域と黒潮流域の海水のδ15Nの解明などが挙げられる.他の海域データの収集に煮干しを活用することを検討する.これらのことにより,富栄養化についての原因と対策が明らかになる可能性があると考えられる.

日本生態学会