| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-305
森林土壌では,植物と微生物間で養分の獲得をめぐる競争の存在が指摘されている.森林生態系の養分循環を考える上で,植物の養分要求量や循環量だけでなく,微生物による無機化・不動化特性を把握することも重要である.本試験地のこれまでの研究から,スギ人工林の伐採・植栽後の経過年数に伴って土壌における窒素無機化過程が変化し,植物への窒素可給性や系外への窒素流出と密接に関係していることが示された.そこで本研究では窒素無機化の主体である微生物に注目して,土壌微生物バイオマス(SMB)と,養分を添加した際のSMBや無機化速度の応答から,微生物の養分要求性と森林生態系の養分循環機構との関係を明らかにすることを目的とした.調査地は奈良県十津川村護摩壇山試験地で,伐採・植栽後の経過年数の異なる3サイト(5・44・90年生スギ林)を対象としてSMBや土壌可給態養分現存量と,添加した養分(C(炭素)・N(窒素)・P(リン)・A(CNP混合)・O(無処理))に対する応答を把握した.
林齢によらずCがSMBの制限要因の一つであった.5年生土壌では処理前のNO3-現存量が3林齢の中で最も多く,加えて林地へのリター量が少なく新たに土壌に供給されるCが少ないことから,NO3-が系外へ流出しやすい生態系であると考えられる.44年生土壌ではN添加によって微生物によるN不動化が他の林齢よりも卓越したことと,林地へのリター量が多く,新たに供給されるCが多いことから,SMBと植物間でのN獲得の競合が最も厳しい生態系であると推察される.90年生土壌ではP添加によるN不動化が他よりも卓越し,相対的にPの不足した系であることが示唆された.以上から,伐採・植栽後の経過年数に伴い微生物の養分要求性が変化したことにより,土壌中の可給態養分量の制限要因が変化したと考えられる.