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一般講演(ポスター発表) P2-307
森林から流出した渓流水は、山地を下り、田園地帯や市街地、工業地帯といった土地利用形態の異なる地域を流下し、最終的に海に至る。適切な流域および水資源管理のためにはこれらの流下過程で渓流水がどのような影響を受けるかを正確に把握する必要がある。これまでの研究により、河川水質は流域内部の地質・地形・土地利用などの影響を受け、流域の状態の指標となることが示されている。そこで、本研究では、京都大学フィールド研究センター和歌山研究林内に源流をもつ有田川を対象に、森林域で形成される上流域における水質形成および流下過程における水質変化の要因を明らかにする目的で、渓流水の調査を行った。
和歌山研究林は有田川の源流のひとつである上湯川川流域に位置する。研究林内において上湯川川に流入する支流として、主に植生の違いに着目して10集水域を選んだ。植生はスギ・ヒノキ人工林(37〜70年生、2008年現在)、天然生のモミ・ツガである。これらの集水域と有田川の流下過程で海に至る10地点において、2週間〜1ヶ月に一度採水し、試料を分析に供した。分析項目は、pH、電気伝導度(EC)、Cl-、NO3-、SO42-、Ca2+、Mg2+、K+、Na+、NH4+である。
上流域において渓流水のpHはいずれも中性域にあり、汚染度の指標となるNO3-は50μmol/L以下、NH4+は検出限界以下を示し、本調査地では植生や地形によらず、中和機能や浄化機能が働いていることが示された。下流に至る過程では、下流ほどECが高く、流下過程での排水の流入などの影響が示唆された。