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一般講演(ポスター発表) P2-308
北海道北部に位置するサロベツ湿原は,平地に発達した高層湿原として生態学的重要性の高い湿原である.湿原からは温室効果ガスであるメタンが放出されているが,サロベツ湿原も例外ではない.前報(2007年松山大会)では,夏季にサンプリングした泥炭コアを用い,メタン生成菌群集が比較的表層でのみ検出されたことを報告した.しかし,サロベツ湿原は冬季に積雪があり,気温の年較差は30℃にも及ぶことから,それらの環境要因の影響が泥炭層における微生物群集の分布にも及ぶ可能性がある.さらに,メタン生成菌の季節的分布を把握することは,湿原からのメタンフラックスの季節的変動メカニズムを理解するのに資するものと考える.本研究ではメタン生成酵素遺伝子(mcrA)に着目し,湿原泥炭層における微生物群集の定量的な解析を試みた.
2007年1月から12月まで隔月で,サロベツ湿原の表層から200cm分の泥炭コアを採取した.それらのコアの9深度からDNA抽出を行い,バクテリアおよびアーキアの16S rRNA遺伝子,ならびにmcrAの定量PCR解析を行った.また泥炭コアから間隙水を採取し,水質パラメータの測定を行った.さらに,地下の酸化還元環境を把握するため,センサプローブを泥炭層の3深度に設置し,原位置における酸化還元電位,溶存酸素量および地温のモニタリングを行った.その結果,サロベツ湿原の泥炭層におけるメタン生成の場が,年間を通して深度30cm付近に存在することが示され,夏季以降の高温期にmcrAの存在量が顕著に増加することが明らかとなった.
本講演では,湿原泥炭層におけるメタン生成菌の鉛直的・季節的分布を特徴づける複合的な要因について議論する.