| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-003

林冠タイプの違いが林床に生育するケネザサの生産特性に与える影響

石井義朗(岡山大院環境),竹内小百合,山塚慶子(岡山大農),阿拉坦花,坂本圭児,三木直子,廣部 宗,吉川 賢(岡山大院環境)

森林の天然更新において,林床を広く被覆するササは大きな阻害要因の一つである.したがって,ササ群落の管理は重要な問題であるが,管理方法の構築に必要となるその生態学的知見は乏しい.本研究は,暖温帯2次林の林床に優占するケネザサを対象とし,その光合成生産の特性を個葉・稈レベルで解明することを目的とした.そのために,1)落葉樹林の林縁(DEタイプ),および2)落葉樹と常緑樹が混交する森林の林内(MFタイプ)において,ケネザサ当年生稈の葉群動態および光合成特性の季節変化を調べた.

光環境は,調査期間を通じて,DEタイプの方が明るかった.両タイプとも,当年生稈の発生は3月中旬〜4月中旬に集中した.展葉は稈の発生直後から始まり,着葉数は6月下旬〜7月中旬に最大となった.その後落葉に伴い着葉数は減少した.その速度はDEタイプで高く,12月の時点で,MFタイプでは最大着葉数の約60%の葉が残存していたが,DEタイプでは30%ほどであった.最大光合成速度(Amax)をみると,夏期ではDEタイプがMFタイプの約2倍の値を示した.冬期になると,両タイプともAmaxは低下した.その程度はDEタイプで著しく,その結果,冬期のAmaxはDEタイプの方が低くなった.DEタイプでは冬期に,光防御機能を有するカロテノイド類の濃度が上昇したが,光化学系2の最大量子収率は大幅に低下した.冬期におけるDEタイプのAmaxの低下は,光防御系色素が十分に機能せず光障害を受けたことが一因であると考えられた.

以上,ケネザサの光合成生産の特性を個葉・稈レベルで検討した結果,明環境下では成長期に旺盛な生産を行うのに対し,暗環境下では一年を通じて安定した生産を維持することが分かった.

日本生態学会