| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-005

光合成の光阻害は弱光条件でも起こるのか?

小口理一(東大・理),寺島一郎(東大・理),Wah Soon Chow(Australian National Univ.)

植物の光合成において、光は欠くことの出来ない資源である一方で、強すぎる光は光阻害と呼ばれる光合成の低下を引き起こす。光阻害は主に光化学系IIの不活性化が原因であるが、このメカニズムについて現在、二つの異なる仮説が提唱されている。一つ目は、葉が受けた光エネルギーのうち光合成やNPQなどで消費しきれない過剰な光エネルギーがダメージを引き起こすとし、Excess energy仮説と呼ばれる(Ogren et al. 1984, Vass et al. 1992)。二つ目は、酸素発生系のMnが光によって励起されることで遊離し、酸素発生系が機能を失った状態で反応中心のクロロフィルが励起されることがダメージを引き起こすと提唱し、Two-step仮説と呼ばれる(Hakala et al. 2005, Ohnishi et al. 2005)。前者では、過剰な光エネルギーが発生しない弱光環境では光化学系IIの光阻害は起こらないはずだが、後者では弱光環境であっても光阻害は起こるはずである。そこで、我々はin vivoの弱光環境で実際に光阻害が起こるのかを確かめることにした。植物はダメージを受けた光化学系IIを修復する機能を持つため、根から修復の阻害剤を吸わせた個体を用いて、切除していない葉の光阻害を非破壊的に観察した。光阻害は、白色、青色、緑色、赤色LEDを用いて、それぞれで、弱光、中光 、強光(それぞれ30,60,950 umol m-2 s-1) 環境で行った。光阻害速度は強光で、弱光や中光よりも有意に高かったが、過剰光エネルギーがほとんどない弱光や中光でも光阻害は起きていた。また、光阻害速度は青色、白色、緑色、赤色の順で高くなっていた。これらの結果は、二つの光阻害仮説が両方とも起きていることを示す結果である。

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