| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-012

落葉樹林の林床に生育する雌雄異株の低木アオキの繁殖器官と葉における炭素バランス

*今井俊輔,小川一治(名古屋大院・生命農学)

本研究では、落葉樹林に生育する低木アオキが、林床の変化する光環境でどのような炭素獲得特性および繁殖への配分特性を持つのか、また雌雄異株植物であるアオキは性間でその特性が異なるのかを明らかにすることを目的とした。

2006年に果実と当年葉の成長およびCO2交換速度を測定した。それにより、果実と当年葉の1日あたりの成長量、総光合成量、呼吸量を算出し、果実が必要な転流量および当年葉から他器官への転流量を推定した。2007年に雄と雌の当年生シュートの成長および当年葉のCO2交換速度を測定し、それらにおける性差を調査した。

一年生シュートレベルでの転流関係の推定により、最も結実したシュートではシュート上の当年葉だけでは果実が必要な同化産物量を賄えないことが示唆された。しかし、一年葉は当年葉の約85%の光合成速度を持ち、同化産物が不足する期間に正の炭素獲得を達成した。これは一年葉の同化器官としての重要性を定量的に示唆している。また、当年葉および一年葉は冬の落葉期に高い光合成速度を維持して夏期よりも多い同化産物を生産し、林床に適応的と考えられる光合成特性を示した。

果実は呼吸で放出するCO2を80%以上の割合で再固定できる光合成能力を持つが、林床での1日あたりの再固定率に換算すると3-8%であった。また、シュートの果実の有無による当年葉の最大総光合成速度に有意差はなかった。よって、アオキでは結実による繁殖コストの補償能力への影響はあまりないと考えられる。

雄の最大総光合成速度は雌より高かったが、弱光下の光合成速度に差はなく、1日あたりの炭素同化量に性差は見られなかった。繁殖への投資量は、雌の果実への投資量が雄の花序への投資量を上回った。栄養器官への炭素配分量は雄が高い値を示したため、アオキでは繁殖と栄養成長との間にシュートレベルのトレードオフが存在する可能性が示唆された。

日本生態学会