| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-013

環孔材と散孔材の水輸送戦略

*種子田春彦(東京大・院・理), John Sperry (Utah大)

Hacke et al. (2006) は、40種の木本のvulnerability curveを測定し、高い通導度を持つ環孔材は水ストレスによって起きるエンボリズムに対して非常に脆弱であり、通導度が低い散孔材は陰圧下でも通導能力を保つことができることを示唆した。私たちは、アメリカ南西部の乾燥地帯で優占するgambel oak(環孔材。以下、ナラと呼ぶ)とbigtooth maple(散孔材。以下、カエデと呼ぶ)を使って、こうした関係が実際に野外に生えている植物にも適用できることを確認し、環孔材を持つ樹木は脆弱な木部をどのように維持するのかを調べた。

両種のvulnerability curveは、ナラがカエデよりもはるかに脆弱であることを示した。さらに夏の初めと終わりに日中の茎断面積あたりの通導度を測定したところ、vulnerability curveから予測されるように、ナラはカエデよりもはるかに小さいに値を示した。ところが、ナラの通導度の最大値がカエデよりも大きかったことと茎断面積あたりの葉面積がナラで大きかったことによって、葉面積あたりの通導度は両種でほぼ同じ値を示した。さらに、ナラの根の水ポテンシャルは、乾燥の強い夏の間も真昼の水ポテンシャルを-1.5 MPa前後に保っていた。また、ナラでは、日中に低下した通導度が次の日の早朝には回復していた。これらの性質は通導度が深刻な水ストレスを招くレベルまでの低下を防ぐとともに、湿度の比較的高い午前中に光合成生産を高めるだろう。

エンボリズムに対して極めて脆弱であることが予想される環孔材を持つ種は、冠水環境から乾燥地帯にまで適応している。これは今回示した性質を環孔材の種が獲得した結果であろう。

日本生態学会