| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-015
高標高域では、大気圧が低下するにともない気温も低下する。一般に、個葉の光合成の最適温度は生育温度にほぼ一致することが知られており、高標高域に生育する植物の個葉光合成の最適温度は低地に生育する植物よりも低いことが予想される。また、低大気圧下では大気中の光合成反応の基質であるCO2とその競争阻害物質O2がともに減少し、光合成速度に影響しているが、その影響の大きさには葉内のCO2拡散のしやすさ(gi)や葉中のCO2固定酵素ルビスコ(E)の量が影響することが示されている(Sakata and Yokoi 2002; Sakata et al. 2007)。したがって低大気圧下での個葉光合成の温度依存性にもgiやEが影響することが予想され、高標高域に生育する植物の光合成の最適温度調節に一定の役割を果たしている可能性がある。
そこで演者らは、低地(標高100 m)と富士山五合目付近(標高2250 m)に生育する二つのイタドリ個体群を材料に、個葉光合成速度の温度依存性をCO2分圧とO2分圧を変えながら実測し大気圧が個葉光合成の温度依存性に及ぼす影響の検討を行った(模擬低大気圧実験)。その結果、低地個体群は葉温30℃付近が個葉光合成の最適温度だったのに比べ、低大気圧下の高地個体群の最適温度は25℃付近であることが示された。低大気圧によって個葉光合成の最適温度が低下する現象は、ホウレンソウより抽出したルビスコの温度依存性(Jordan and Ogren 1984)やgiとEをパラメータに用いた数値シミュレーション解析からも定性的に確認することができた。本講演では以上の結果などから、高標高に生育する植物の光合成最適温度調節のメカニズムについて考察を行う。